2021年5月5日

無題

本来ならば、まだ今頃は、京王線の中くらいのタイミングかと思いますが、緊急事態宣言のため、観客を伴っての公演はなくなり無料配信になったので、すでにレビュー書いてます。どう考えても、納得できない今回の劇場閉鎖は、思うところもいいたいこともたくさんありますが、そんな中で、4キャストとも無料配信にふみきって、バレエファンの心を鎮めてくれた新国立劇場バレエの英断には感謝します。でも~、配信って、くせものなのですよ。劇場ならば、まばたきさえしなければ、その一瞬を見逃すことはないのですけれど、配信って、通信状態によっては、ぐるぐるしちゃうでしょう。ファイヤースティックTVならば、画質はおちるがぐるぐるしないとわかっていながら、本日画質をとったPCで観たら、奥村君のソロでぐるぐるした時は、なんとも無念な思いでした。空気感だとか、その場の高揚感のため、劇場での体験はかえがたいと言われてますが、劇場なら通信状態に左右されないっていうのも忘れちゃいけないことだなと思うのでした。


"コッペリア”って、古典の部類だと思うのですが、わたしの中の初”コッペリア”は、意外にもプティ版でそれも新国立劇場バレエなのでした。2007年のまだまだバレエ初心者のころ、お友達が譲ってくれたチケットで、ルシアラッカラと当時の旦那さんとルイジボニーノで観たことがありました。映像でもあまり観たことがなく、なぜか熊哲のKバレエの映像を観て、あとは、前回のENBの来日公演でロホとイサックのを観ただけかな?あまり日本で上演されないせいもあるかと思いますが、たぶん、お話があまり好きじゃなくて観る機会がなかったのかと思います。今回、10年以上ぶりにプティ版を観て、全体的にポップでおしゃれなのに、最後の最後が、ものすご~く後味悪い終わり方だと思うのです。古典のほうもコッペリウス博士はかわいそうなのだけど、プティ版の最後、ばらばらになるお人形を抱えた姿のコッペリウス博士は、ものすごく古いフランス映画の不条理な最後にも似て、微妙な後味の悪さを残すので、わたし的には好きな作品とはいいがたいのでした。


とはいえども、本日、公演としては、とてもよかったと思います。配信は、2日から、全部観ていますけど、わたしの贔屓目があるせいなのか、これまでの公演と比較しても一番よかったのではないかな。これまで観た2公演もさすが、新国立劇場バレエならではの完成度で、十分に楽しく観れたのですけれど、今日は、キャストのバランスと主役のパートナーシップという点では、もっとも安定していたように思うのです。今回、なぜだか、木村さん&渡邊君と絢子ちゃん&福岡君のペアがクロスしているのですよね。木村さんにとっては、よきことだと思ったのですが、パートナーシップって、どうしても時間と経験が作り出す深みが要所要所にでますから、クロスしちゃうとそこが難しいです。木村さんスワルニダはすご~く可愛くて、福岡君フランツも勢いがあってよかったけど、恋人どおしの他愛ないふれあいみたいなところや、パドドゥでの一瞬の形が、時間の短さで残念だったなと思います。福岡君と絢子ちゃんのパドドゥの見事さが頭にやきついているので、ちょっと邪魔しちゃったかなとも思いますが。唯ちゃんの回は、とにかく唯ちゃんのバレエの見事さにくぎ付けでしたが、わたしが井澤君のバレエがどうしても好みでないのではいりこめませんでした。

そんなこんなで、本日のペアは、これでもかというくらい、ずっとずっとペア変えずにみせられている感のある奥村君&池田さんです。奥村君ねらいで、チケットを買っていると、ほぼもれなく池田さんがついてくるのが、しかたないわね~と思っていた時もありましたが、耐えて見守ってきた甲斐があったというものです。ほんと、池田さんよくなりましたよね~。今となっては、その成長過程をずっと目撃できたことを幸運に思えるほどです。この二人は、2017年にも同じ作品で共演しているとのことですが、わたしはそのころ、もっとも韓国遠征が忙しく観てなかったのです。奥村君が、この役が似つかわしいのは想定済みでした。はじけるようなバリエーションと、若い男の子役をやらせたら、悪いはずはなかろうというものです。よかったです~。もっと若い頃なら、その勢いとジャンプの高さ、技巧系のテクニックに胸のすく思いを感じたものですが、数々の王子を経て大人になった奥村君のフランツは、ひとつひとつの仕草に、端整なエレガンスを感じるのですよね。一幕の最後にはしごを上る時に伸ばした脚のライン運びが美しい~。成熟期をむかえて、テクニックと表現力がこれからピークにむかう男性ダンサーの一番よい時期にはいっているのでしょう。これから、ますます楽しみです。これからの3年から5年の間に、深みのあるドラマティックバレエを新国立劇場バレエが上演してくれて、彼が配役されるといいなと思います。いろいろなパートナーとの経験もよいと思うけれど、池田さんが本当に成長してくれたおかげて、この二人のパートナシップが生み出すものも最近のお楽しみになってきました。池田さんは、たぶん、基本的なテクニックも強い方なのでしょう。これまでいろいろ力不足をいわれていたけれど、舞台での自信がついて、表現力もついてきて、何よりも信頼できるパートナーと作り上げる喜びを知ったように思います。表情硬めは相変わらずですけど、その硬さの中にも、演じることを楽しんでいることを感じられる一瞬があり、彼女の中で独自の役を造形しているのだなと思います。奥村君も池田さんも十分にパートナーとして成熟してきたので、そろそろクロスするかもしれませんけど、古典以外の作品でももっと観ていたいペアだなと思います。

コッペリウス博士は、プティ作品ならば、ルイジボニーノさんの印象が強いのですけれど、あの役づくりって、両刃の刃だなと思います。作品の持ち味は、もちろん本家本元だから、正しい姿かと思います。でも~、あの雰囲気を他のダンサーがそのまま踏襲しちゃうとわざとらしくなってしまうのですよね。今回、来日できずリモートの指導とのことでしたが、山本さんも中島君も、きちんとご自身のコッペリウスを造形できていてよかったと思います。山本さんは、数年前に平山素子さんの”兵士の物語”で悪魔役を演じていて、強烈な印象を残していたので、たぶん、くるだろうなと思っていたとおり、灰汁の強いコッペリウス博士でした。これは、中島君、強敵だねと思っていましたところ、わたしは、中島君の気負いのない、さらっと、ちょっとしたエスプリを感じるコッペリウス博士、よかったと思います。彼は、今まで観たことあったかなと思ったら、”竜宮”で時の案内人だった人ですよね?体型がすっきりしていて、所作もきれいなので、もっと踊る役だとどんなかなと思います。

今回、配信でよいなと思ったのが、お衣装がよく見えるところですね。スワルニダの白いお衣装にパステルカラーの模様がついていて、とてもかわいかったです。プティ版は、主役の3人以外は、ほとんどコールドなので、個々のダンサーの踊りをみれないのは残念ですが、コールドの振り付けがおしゃれで、ドリーブの音楽の美しさをよく引き立てていました。ドリーブの音楽って、本当に心地よいです。バレエ音楽といえば、チャイコフスキーですが、彼が、ドリーブの”シルヴィア”を聴いて、かなわないと思ったというのを読んだことがあります。最後の後味の悪いおわり方がなければ、”コッペリア”って心地よい作品なのになと思わずにはいられません。

長いと思ったGWも、わりとあっという間に過ぎてしまいました。今回、わりと心みたされて過ごせたのは、”コッペリア”の配信の力は大きかったかなと思います。最後の配信が土曜日にあります。楽しみです~。