2022年9月29日
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通常のバレエファンならば、とっくの1か月前に鑑賞済みのことと思います。わたしは、タイミングが悪く、丁度外出自粛および遠出不可期間にあたり、今回は観れないかなとあきらめていたのです。ところが、今週いっぱいまで横浜で上映されていると知り、本日、6週間ぶりに電車に乗った外出をして観てきたのでした。

パリオペって、ちょこちょことドキュメンタリー映画を作っており、こういうカンパニーの宣伝はうまいなと思います。なんといっても、パリオペはブランドですから、日常の風景さえ絵になりますしね。コロナになって、本当に外国が遠い異国になってしまいますと、スクリーンにうつるパリオペの窓から見える風景さえもなつかしく、美しく、切なくなりました。コロナ前ならば、パリオペのシーズンに日本人のバレエファンは当たり前みたにバレエ鑑賞旅行に出かけていましたのにね。毎年、日本にも海外からのカンパニーが次々にやってきて、スケジュールとお財布の調整に悩むほど、バレエを観れた日々は、本当に夢のようでした。こんな思いを抱きながら、ドキュメンタリーを観ますと、ダンサーや関係者たちの思いも他人事でなく心に響いたように思います。

パリオペのダンサーは、当然のように世界の一流の中にいることが求められ、最高のパフォーマンスをして当たり前と期待されています。ダンサーたちは、それを自覚して、日々鍛錬し、自己をみがきあげています。それは、ダンサーにとっての人生であり、生きる意味であり、アイデンティティでもあるのです。パンデミックのために、3か月間、カンパニーのスタジオに来ることができず自宅で一人踊ることと向き合わねばならなかったことの過酷さは、多くを語らないダンサーの言葉の端々から感じました。わたしたちが、バレエの芸術の力で、生きる喜びをもらっているのは、そこに人生をかけた人々の証がみえるからです。彼らの人生をかけてその術をみせる準備をしてくれているからこそ成立しているものです。コロナで、飲食店をはじめ、エンターテイメントなど、多くの業界が大きな打撃をうけました。芸術は不要不急かどうかということもよく耳にしました。誤解なくうまく伝わるかわかりませんが、人が人生をかけて取り組む職業は、不要不急という観点とは次元が違うのだと思いました。人生をかけてだした結果に喜んで対価を支払う観客のいるかぎり、それは、人類にとって不可欠なもなのだなと思えたのです。

3か月のブランクの後、リハーサルの始まったグランバレエ、ヌレエフ版”ラ・バヤデール”の記録は見ごたえがありました。コールドのリハーサル、ソリストたちの個々のリハーサル、スタジオでカンパニー内の通しのリハーサル、劇場でのお衣装をつけたリハーサル、本番直前のゲネ。ここまで、しっかりみせてきて、なんとまさかの公演中止。幕ごとに配役をかえて、無観客で配信だけはとったようです。これは、観ているわたしにとっても胸が痛みました。3か月の踊れない期間を経て、やっと公演再開にむけて、ひとつ、ひとつを積み重ねて、ダンサーはブランクの恐れも感じながら、ひたすらに観客とのふれあいを期待していたのに。パリオペは、こうしてドキュメンタリーでこの過酷な現実を残しましたけれど、世界中には、同じ光景が、幾千も繰り広げられていたのだなと改めて、コロナ禍の芸術、エンターテイメントの世界の大きな傷を思わずにはいられませんでした。映画は、このあと、さらっと、上演がかなったシーズン最後の”ロミジュリ”の舞台の成功がうつり、”ラ・バヤデール”から”ロミジュリ”まで、パリオペがどんな風に立ち直って、葛藤して、その舞台を作り上げられたかが描かれてないのは残念でした。もしかして、本当は、”ラ・バヤデール”が予定通り上演されていたら、そこでドキュメンタリー的にハッピーエンドで終わるつもりで映画を撮っていたのかなと思いました。事実は小説より奇なりですから、人間が考えるより、現実はずっとずっと過酷で厳しかったでことでしょう。

内容的には、とても面白くありましたが、ダンサーのチョイスは、個人的には残念でした。一番いっぱい出てきて踊ったのは、ユーゴマルシャン。ま、悪くはないけど、個人的には、そこまで嬉しいダンサーじゃないし、実際、パリオペエトワールを代表してみせるほどのソロじゃなかったです。次が、アルビッソンかな。彼女は、レッスン姿はとても美しいです。でも、本番で、特にドラマチックなものではパッとしないのですけど、そのわけがなんとなくわかりました。レッスンしている先生が、”視線が感じられないわ。視線を感じられないと共感できない”といってました。なるほど、彼女って、内面的なものが薄いのか、それを表現することが苦手なのかわかりませんが、思いがバレエにのりにくいタイプなのだねと思いました。ダンサーによっては、表現力があるので、バレエテクニックが多少弱くてもみせるダンサーもいますが。マチュウとマチアスは、若干登場しますが、踊る部分が少なく、これはおおいに残念でした。ものすご~く短くではありますが、意外によかったのが、ステファンとミリアム。オレリーが、ステファンの視線がすごく美しいといっていましたが、まさにそれを感じました。演技がうすいステファンなのに、気持ちがバレエに出るようになったのだねと、引退間近に立派なダンサーになれたことが確認できました。ミリアムとの組み合わせは日本では観たことないので、みてみたかったです。ポールマルクは、そんなに注目していませんでしたが、ゴールデンアイドルでエトワールに任命されていました。スタジオでのソロはお見事でした。最後にパクセウンのジュリエットもエトワールに任命されました。パクセウンは、ドンキの日本公演の時から、いいダンサーだと思っていたので、とても嬉しかったです。

今回、このドキュメンタリーの見ごたえを支えているのは、取り組む作品がやはりヌレエフのグランドバレエということでしょう。パリオペのゴージャスさを見せつけるならば、ヌレエフ版のグランバレエをぬきには語れません。直近2回の2017年、2020年のパリオペ引っ越し公演にはヌレエフ版のグランバレエがありませんでした。オレリーになあって多くの失望がありましたが、一番の失望は、この2回にヌレエフ版のグランバレエがなかったことです。オレリーの次に誰が継ぐのかわかりませんが、次回は是非に、ヌレエフ版のグランバレエをもってきてほしいです。その頃には、円安が改善されて、貧しい日本から抜け出せていることを願います。個人的には、”ラ・バヤデール”が一番観たいけど、”ライモンダ”でも”ロミジュリ”でもよいです。ラコットはもういいので、どうかヌレエフ版のグランバレエを日本でみせてください。